《リレーエッセイ8》 当NPO会員・広報担当 吉田 修 様

《リレーエッセイ8》「キャリア権の法制化について思うこと」
認定NPO法人 キャリア権推進ネットワーク会員・広報担当 吉田 修

私の子供の頃、社会科と呼んだ教科は歴史・地理・政治経済の分野のことでしたが、現在は、歴史・地理と公民という分野で構成されています。
親戚の子が中学校の公民の教科書を持っていたので読んでみたら、興味深い記載がありました。

「基本的人権と新しい権利」という章です。自由権、平等権、社会権など憲法に定められた権利について解説をしたその後に、憲法に明記されていない「新しい人権」として、 環境権、知る権利、プライバシーの権利、自己決定権(公共の福祉に反しない限り、ライフスタイルを決定できる権利)、国際社会の中での権利(人種差別撤廃条約、子どもの権利条約等)などが紹介されています。

権利というものが社会の変化や時代の要請に応えて、次々と生まれていることがわかります。
新しい権利の芽を見つけ、水をやり、その是非を議論し、是であればさらに育み、法制化していくことが、人間社会の進歩や成熟につながるということだと思いました。

神戸大学の西村和雄特命教授(数理経済学)のチームが2018年2月に行った「生活環境と幸福感に関するインターネット調査」(N=20,005:http://www.kobe-u.ac.jp/research_at_kobe/NEWS/news/2018_08_30_01.html)によれば、日本人が抱く主観的幸福感には所得や学歴よりも「選択の自由(自己決定指標)」が強い影響を与えていることが判明しました。つまり、自分が選択し、責任を持つことが、満足度や幸福感により影響するということです。

また、35~49歳では、他の年齢層に比べて幸福感が落ち込む傾向にありました。しみじみと実感される方も多いかもしれません。
この調査結果は、諏訪康雄先生がこれまで述べてこられた「働く年数の上昇とともに、自らのキャリアを自己が選択・決定できる事がより可能となる環境整備が求められる」とするキャリア権の考え方をおおいに後押しするものだと思います。
働き方改革や人生百年時代構想の中で、キャリア権の法制化ついて議論を深めていく機が熟したのではないでしょうか?

そこで、キャリア権の議論を一歩進めるための提案を幾つか挙げてみたいと思います。 傍論や暴論も含むものでありますが、ご容赦くださいませ。

■これから就職する学生や転職を考えている方へ
・自分のキャリアが尊重され、意見や希望を傾聴してもらえ、積むべきキャリアについて助言を与えてくれる人事制度を持つ企業を選びましょう。
・教育訓練・能力開発の制度が充実しており、人事考課の仕組みがオープンで、従業員との対話がしっかりできている企業を選びましょう。

■人材の欲しい企業へ
・経営者自らキャリア権についしっかりと学んだ上で、求人情報に「わが社はあなたのキャリア権を尊重する。なぜなら~。」と意思を持って主張しましょう。明記する効果はきっと大きいと思います。
・終身雇用ではないことを明確にし、働く人の権利と義務を再定義しましょう。そのことを社是・社訓に反映しましょう。
・今後、職種や地域や時間を限定した社員が増加していく中で、多様なキャリアプランを尊重する人事制度を設けましょう。

■労働組合の方へ
・前述した神戸大の調査を踏まえ、「働く人の選択の自由(自己決定指標)」にどのような貢献ができるかを検討しましょう。
・非正規労働者、外国人、高齢者、女性、フリーランサーなど組織化されていない方々のキャリアデベロップメントにどのような示唆と貢献ができるかを検討しましょう。

※ここに書いたものは個人的な意見であり、当NPOの公式な見解ではありません。念のために付記いたします。

当NPOの定款第3条では、「(この法人は)キャリア権の理念を提唱し、社会にキャリア権の概念が広く認知され、普及するための事業を行い、キャリア権の基本法制化並びにその理念にのっとった諸法令の制定・適用及び政策の策定・運用の実現に向け活動する」ことが謳われています。

キャリア権の法制化には、多くかつ高いハードルがあると思われますが、多くの方のご理解とご支援を得て、近い将来に法制化が実現することを願ってやみません。