《トップインタビューシリーズ 5》 公益財団法人21世紀職業財団
会長 岩田 喜美枝 様
キャリアを高める「仕事の継続」と「成長実感」を実現するために
(2015/4/20)

《トップインタビューシリーズ 5》 公益財団法人21世紀職業財団
会長 岩田 喜美枝 様
キャリアを高める「仕事の継続」と「成長実感」を実現するために
(2015/4/20)

―少子高齢化や人口減少が急速に進む中、女性の活躍に対する期待が高まっています。日本政府も2013年以来成長戦略の中核政策として、女性の活躍推進を掲げて取り組んできています。
 そもそも女性の活躍とは何でしょうか?

 女性の活躍について「結婚や出産・育児を理由に仕事を辞めない」「子育てと仕事が両立できている」という状態のことという見方もあります。
 私はそれでは十分ではないと思っています。男性も含めて、働く人たちが常にキャリアアップしていける状態。「仕事の継続」と「キャリアアップ」の両立ができてはじめて「女性が 活躍する社会に到達した」と言えるでしょう。

―女性が活躍するための「仕事の継続」と「キャリアアップ」を両立するために、女性自身は具体的にどう取り組めばいいのでしょうか?

 働く人全てが、生涯を通じてどういうキャリアをつくりたいか考え、ひとりひとりがキャリアを追求することが重要です。
 「時間軸」(ライフステージ)で考えてみましょう。

 まず初期キャリア、特に新卒時は正規雇用で就職しなさい、そのために、あんまり会社とか選ばないほうがいいよって私は言っています。何になりたいとか、どんな仕事をしたいとか、そういう希望を持つことは別に悪いことではありません。しかし本当にどういう仕事が自分に合うのか、どういう仕事が面白いのかは、やってみないと分からないと思います。

 私の実感ではありますが、仕事はやってみないと面白いかどうか分からないし、逆に言うと、本気でその仕事に5年、10年向き合ったら、好きにならない仕事なんて無いと思います。
 極端なことを言えば、どんな仕事でもいい。だから、非正規雇用じゃなくて正規雇用で就職しなさいと。それから、大企業に勤務することがすべてではありません。大企業に入れば一生安泰と思われていましたが、企業平均寿命は40年だそうです。これからの人生は40年以上の年月を働かなくてはなりません。大企業もみんな最初は零細企業、中小企業から成長して大企業になっているのだから、中小企業も含めて考え、正規雇用してくれる会社に行きなさいと言っています。

 次に、中期キャリアについてですが、特に大事なことは、出産・子育て・介護期においては、仕事の中断は絶対あってはならないということです。
 女性の場合はまだまだ多くの方が、第1子の時に仕事を中断して、暫く専業主婦で子育てに専念して、また何年か経ったら再就職するといったことがあります。子育てのために仕事を辞める前のご自身が築き上げたキャリアを以前のような形で継続して再就職できるかというと、まず難しいです。

 また非正規雇用で再就職するとほとんどの人がキャリアアップが厳しいという結果が出ています。その結果、学校を卒業して正規雇用で入社し定年まで働くケースと、結婚・出産退職をし、パートで再就職をするケースを比較すると、短大卒の場合で、退職金まで含めて生涯所得は 1億8000万円も違います(内閣府調査)。別に経済的な動機だけで働くわけではありませんが、収入を得るために働く訳ですから、経済的な動機は誰にでも必ずあるはずです。

―「子育てと仕事の両立」で重要なことは「仕事の継続」ということですね。どうして仕事を継続できない問題が起きるのでしょうか?

 初期キャリアの段階では情報格差がありました。しかし最近は大学在学中にキャリア教育を学ぶことで、多くの女子学生はキャリア意識を確実に育んでいます。
 仕事の継続のために正規社員として就職することが大事ですが、この点は学卒市場がタイトであることもあり、就職時点でのハードルは低くなっています。
 しかし、問題は中期キャリアです。出産・子育て・介護期時における仕事の中断や非正規雇用での再就職が減らないのは、長時間労働やロールモデル不在という問題だと思います。

 いろんなアンケート調査を見ると、20代女性はすごく不安がっています。何が不安かっていうと、やっぱり最大の不安は、長時間労働の中で結婚して仕事が続くだろうか、子どもが生まれてからも仕事が続くのだろうか、と思っています。また結婚の予定が無い人でも、一般的にそう思っています。
 子どもが小さい時期のいろんな制度は整備されています。育児休業とか、短時間勤務とか、残業免除とかはありますが、心配しているのはそこではありません。その後の長い期間続く子育てをしていく上で、本当に長時間残業ができるのだろうかということです。そういった働き方を無くさないといけないことが大きな課題です。

 それからもう1つは、将来のキャリアが見えないことです。
 男性だと、いろんな先輩たちが居ますので、それらを見て、どんなキャリアの可能性があるのか、何年くらい経ったらどのようになるか予測がつきます。
 キャリアというのは文書化されていないことが多いので、先輩を観察しながら可能性を何となく感じ取ります。しかし、女性の場合は、キャリアで成功している先輩たちが少ないので、自分のキャリアが描きづらい。
 男性のキャリアを見ていると、自分はああいうふうになれないとか、なりたくないとか、20代から不安が始まっています。だから、そういうのを取り除いてあげないと、なかなか仕事は継続できません。

―「ロールモデル不在」や「長時間労働」問題をどう解決すればいいのですか?

 キャリアが見えないことを心配している女性たちに、キャリアを見せてあげる機会をつくらなければなりません。
 大手企業では、自分の職場にはいないが、社内やグループ会社の中にはロールモデルになる方もいらっしゃるので、全社的に見えるようにする必要があります。
 また社内にロールモデルがいなければ、会社外の様々な異業種交流会みたいなのがありますから、そこで社外のロールモデルに出会う機会を会社としてつくってあげるといいでしょう。

 各社の長時間労働対策でポピュラーなのが、ノー残業デーを設定したり、午後8時以降消灯するという形です。それだけだと、残業削減は1割程度です。多くの会社はノー残業デーレベルで足踏みしています。そのうちに時間が経つと形骸化し、長時間労働することに戻ります。本来はすべての事業領域で、あらゆる階層の今の業務を見直すことが必要です。

 業務の優先順位をつけ、選択と集中という観点から業務にあてるマンアワー(人数×時間)を見直さなければいけません。社員は増やせない、しかし今ある仕事は根雪になりながら、新しい仕事が上に積もって増える一方で、何時間働いても終わらない。まずは仕事を止める業務を考えることです。
 また、仕事のプロセスをもうちょっと標準化・簡素化し、同じ成果を出すために投入するマンアワーをいかに最小化するかというのが、働き方改革にとって不可欠だと思います。業務の廃止や業務プロセスの簡素化、そこまでいくと残業が無い会社になれますし、そういう事例がいくつか出てきています。

 2016年4月1日施行の女性活躍推進法では、301人以上の従業員を雇っている会社は義務化され、またそれより小さい中小企業は努力義務になりますが、数値目標を作って、達成するための課題とその解決のためのアクションプランを作成し、国に届け入れ、世に公表することを求めています。時限立法ではありますが、これで相当変わってきます。
 会社として、今の女性活躍の現状と課題をきちんと分析して、会社に合った目標を立て、達成するために何を取り組まないといけないかということを行動計画にして、そしてPDCAサイクルを回さなければなりません。各社共通して言えることは、長時間労働が表層化し、どう直すかどう取り組むか悩みがつきません。

 そこで私は長時間労働を無くすために評価制度の見直しを薦めています。まだどこの会社も採用してくれてませんけど(苦笑)。私は今の評価を、労働時間指数で割ることを提案しています。
 例えば、半年に1回評価するとすれば、半年間の所定労働時間が決まっています。その所定労働時間を1にして、各個人が半年間に何時間働いたかっていうことを指数化します。ある人は残業が多いので、1.2くらいになった。ある人は育児で短時間勤務しているので、0.75でしたと。今の目標管理制度の評価結果が取り敢えず数値化されていると思うので、その数値化されたものを、労働時間指数で割ります。労働時間指数で割った新しい評価結果を並べてみるといいと思います。

 社内の景色が変わって見えます。誰が時間当たりの生産性が高いのか、誰が本当に会社に貢献している人なのかがわかります。
 今並んでいる順番と全然違いますよ、社員の並び方が。このようにして、時間当たりのアウトプットを評価基準にすれば、全社員が時間当たりの成果を高めることを常に意識をし、働き方が変わります。また、時間制約のある社員でも高い評価を得ることができます。

―「キャリアアップ」するために、女性自身が何に心掛けてキャリアを築き上げていく必要があるのでしょうか?

 「キャリアアップ」は管理職に登用されることも重要ですが、本質的には仕事を通じて自分が成長しているということが実感できること、自分の能力が発揮できることです。単に時間で計れるような労働ではない、「労働の質をいかに高めるか」という要素が入ってくるものだと思います。

 また、生涯を通じて個人が追求したいと思っているキャリアが実現できるように、上司、企業、政府、社会などの支援を得られるようにすることだと思います。そのために、女性がキャリアを追求し、キャリアの実現、そして活躍できるように、女性に対して会社は本気で期待を示し、本気で育成に取り組むことです。期待されたら、みんな頑張りますよ。これまで、「ほどほどでいい」と思っている女性が仮に多かったとすると、それは会社が男性に対する期待と、女性に対する期待が明らかに違っていたからです。

 同様に、管理職の育成姿勢も男性部下と女性部下では明らかに違っていました。そういう中に女性は置かれていたのです。期待されていなければ頑張るという気持ちは出てこないです、男性・女性関係なく誰でもです。「ほどほどでいいと思っている人」が職場にいることは女性に対する期待や本気の育成が無かったということの裏返しだと思ったほうがいいです。

 だから、会社のトップも、直属の上司も女性に対して言葉や態度で、期待をきっちり伝えて、本気で育成していかなければなりません。

―良いキャリアを歩むための第一歩は、会社が女性に期待し、育成に本気で取り組むことから始める。ということがわかりました。ではそのために企業はどう取り組めばいいのでしょうか?

 女性社員への期待をどう表すかで一番典型的な例は、コース別雇用管理をやめることです。コース別雇用管理は、総合職は、転勤もあるし、仕事もいろいろなことをさせて大変だけれど、育成します、処遇しますよ。しかし一般職というコースがあるのは、転勤もないし、仕事も定型的な仕事で、ほどほどでいいですよと会社が言っているようなものです。だから、そういうコース別雇用管理をやめることです。全員総合職にした上で、転勤の有無によってのコースを分けることはありえますが、仕事の範囲に差をつけないことでキャリアの天井はなくさなくてはなりません。近年では大企業を中心にそういう方向にあります。

 具体的には一般職を廃止し、一般職であまり意欲が高まっていない方に、モチベーションを上げてもらうための研修の実施や配置転換、仕事の担当領域を変えるなど、取り組み始めています。
 なかなか全員が出すぐには変わらないとしても、それまでの「一般職」や「ほどほどでいいと思っていた人」に、責任のある仕事を担当してもらう、あるいは異動させしっかり育てることにより、それに応えてくれる人を何人かつくろうと試みています。
 「一般職」や「ほどほどでいい」と思っている人達がその様子を見て、ああいう風に頑張れるのか、頑張ったら評価してもらえるのかと気づく。そういった事例づくりを行っています。

―公正公平に扱うことから女性社員のやる気が高まり「キャリアアップ」を目指す。ではどのように「労働の質を高める」意識を醸成できるのか?企業がやるべきことはなんでしょうか?

 それはもう、仕事体験をさせること以外に無いですよ。難しい仕事、責任のある仕事をアサイメントする。
 最初はいきなり大きな仕事は与えられないかもしれませんが、今のようなルーティンな仕事ではない、もう一段難しい仕事をしてもらって、それなりの成功体験を作ってもらうことだと思います。
 そのようなことを何回か経験すると、自信がついてきます。もちろん、自分が全て知っているわけではないので、足りないところは人に相談すればいいのですが、相談するということも含めて、自分が自信を持って判断できるという、それはもう経験以外には教えようが無いですね。
 様々に経験し成功して自信が持てると人はキャリアに興味を持ち、社内でどんな仕事が存在し、それがどうキャリアにつながるのか、キャリアになる仕事にアサインされるためにどうしたらいいか考えるようになります。
 そういうところから一つ一つ労働の質を高めていかなければならないということがわかってくると思います。

 ただし、同じような仕事に長く従事させていると成長カーブが鈍化していくため、今とは異なる部署へ異動させることも重要です。異動というのは、会社があなたを成長させたい、経験の幅を広げてあげたいというメッセージです、異動の話があったらそれはチャンスだから絶対尻込みしては駄目ですと励ましてあげなければなりません。
 鍛えられるという経験は大変ではありますが、キャリアをつくるということを理解し、それらと向き合って乗り越え、仕事のダイナミックな面白さみたいなものを経験することで「労働の質」やキャリアは高めていかなければなりません。

 また子育ては、人を育てる、時間をマネジメントする、複数のことを並行してやる、ことによって、広い意味でその人の能力を高めることになります。また子育ては覚悟と責任感を持たなければできません。
 これらの能力や熱意は仕事に取り組む際、大変役に立ちます。つまり、子育て経験は、職業能力を高めること、つまりキャリアアップに繋がります。
 また、子育て経験を活かして時間当たりの生産性の高さで貢献しているところを周囲に見せることは職場や組織に気づき・刺激を与えます。子育て中の女性は、組織としてどう活躍してもらうか、しっかり考えて登用すべき人材です。

―子育て経験は職業能力を高めて「キャリアアップ」につながるのですね。子育て社員のキャリアを高め活躍してもらうために、上司、企業、政府、社会などはどのように支援すればよいのでしょうか?

 ここで最も重要なのは夫のサポートです。妻のキャリアをサポートするためには、育児や家事など一緒に担わなければなりません。妻だけが育児や家事を100%やって、それで会社でも頑張ってキャリアつくれというのは無理です。
 だから男性にはまず、家庭の中での暮らし方、これを変えてもらいたい。妻の家事や育児を「手伝う」という意識では駄目で、自分のこととして、家庭の中での役割や生活の仕方を変えることです。

 また、男性が家庭責任を担うためには男性の働き方を変えなければなりません。いつでもどこでも何時間でも働きますという働き方を男性が変えることこそが、女性のキャリアアップと活躍につながります。
 これこそが本当のキーポイントです。男性の生き方、家庭の中のあり方、職場での働き方を変えること無くして、女性の活躍は進みません。だから上司、企業、政府、社会が男性を変える取り組みに着手することこそが女性のキャリア支援だと思います。

―貴重なお話しどうもありがとうございました。

【岩田喜美枝様プロフィール】
公益財団法人21世紀職業財団 会長
1971年 東京大学教養学部卒
1971年 労働省(当時)入省
2003年 厚生労働省雇用均等・児童家庭局長を最後に退官
2003年 株式会社資生堂入社
   (常勤顧問として入社後、取締役執行役員、取締役常務を経て)
2008年 同社代表取締役副社長
2012年 同社顧問
(資生堂では人事、総務、CSR、環境、企業文化、お客様センター、広報、宣伝制作等を担当)
2012年 キリンホールディング株式会社社外監査役(現在)、日本航空株式会社社外取締役(現在)
2012年 公益財団法人21世紀職業財団会長(現在)
2016年 キリンホールディングス株式会社社外取締役(現在)
2016年 株式会社ストライプインターナショナル社外取締役(現在)
上記のほか、現在、男女共同参画会議議員、東京都監査委員 、経済同友会幹事などを務めておられます。

※インタビュアー:須東朋広(一般社団法人組織内サイレントマイノリティ 代表理事)